第八話 図書館にて
「Oh! ちょうどいい時間です! さあ、行きましょう、マサーヤ! イベントは二階です!」
ルーシーは出入口のすぐそばの壁にある掛時計を指しながら、俺に呼びかけた。
九時から図書館で開催されるイベント。そのイベントに出るため、ルーシーは十分猶予をもって家を出発したのだろう。
スマートフォンが使えない状態で道に迷ってしまうという絶望的な状況に陥ってしまったが、開始時間には間に合ったのでひとまずこれで安心だ。
イベントの内容については聞くことができなかったが、それは別にいいや。俺が図書館に来た目的はあくまで、食料調達できる場所についての聞き込みだ。
「あっ、私はいいです」
今にも駆け出しそうなルーシーに対して、俺はそう断った。
「Huh? では、何のために図書館へ?」
「私は」
ルーシーの質問に応えようとする途中で、ふと名案が浮かんだ。
せっかく仲間になったんだし、ルーシーの装備を活用すれば良くないか?
叡智の結晶があるじゃないか! スマートフォンという名の!
あれを使えば簡単に行先までの道のりを調べられる。わざわざ拙い英語で道を聞く必要もない。
ただ、電池がないのが問題だ。出入口の近くの壁に充電可のポスターが書いてあるから、いちいち断る必要はないだろうが、充電用のケーブルがないとどうしようもない。誰かから借りる必要がある。
「マサーヤ? どうしました?」
ルーシーは首をかしげている。会話の途中で黙り込んでしまったせいだろう。
「あ、ごめんなさい。ええと、私が図書館に来た目的は食料調達で」
グウゥゥゥ!!!
突然、俺の腹の虫が雄たけびを上げた。
「あはは……。この通り、昨日から何も食べていなくて、食料を手に入れられる場所がないか、町中探しまわっていまして。今日図書館に来たのも聞き込みのためです」
「なんと! そうだったんですか。ふむふむ……」
ルーシーは驚いたかと思うと、今度は小刻みに頷いた。
「それでですね」
「マサーヤ」
言葉を続けようとしたが、ルーシーが俺の名前を呼んで遮った。
「なんですか?」
「イベントが終わったら、一緒にランチに行きましょう!」
ルーシーはにこやかに笑って提言した。
「え? 私、お金持ってないですけど」
「だいじょーぶです。私がおごります!」
「ほんとですか?」
「はい。図書館まで案内してくれたお礼です!」
なんと! 非常にありがたい! 涙流していいですか!?
「ありがとうございます!」
俺は深く頭を下げた。
「ふふっ。となれば、スマートフォンをチャージしなければなりませんね」
「あっそうですね。充電用のケーブルを誰かから借りないといけませんね」
「That's right!」
数分後。
PCスペースで、スマホの充電用ケーブルを持っていそうな人に片っ端から声をかけたところ、なんとか借りることができた。だた、無条件というわけではなく、充電中は近くの席に座っていることが要求された。
なので俺とルーシー二人のうちどちらかが席に張り付け状態になる必要があるのだが、ルーシーはイベントがあるため俺が席に座ることになった。
「それじゃ私、イベントに行ってきます。お昼までには戻りますので」
「わかりました。楽しんできてください」
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俺がそう言うと、ルーシーはにこっと笑って階段のある方へ向かっていった。
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