第七話 第一町人再び!
ピヨピヨ、ピヨピヨピヨ。
ん、もう朝か。あーあ、良く寝た。公園の木陰で寝れるかどうか少し不安だったが、心配する必要はなかったようだ。
両腕の火傷の痛みはまだ治っていない。それもそうだ。ろくに食事もしていない状態で、数時間の休んだところで治るはずもない。甘い設定にすれば違ったのだろうか。
ひとまず起き上がろう。よいしょ。
なんか喉が渇いた。そういえばこの町に召喚されてから何も口にしていない。
ずっと何かを探して走りっぱなしだったから、体内の水分が相当持っていかれていることだろう。脱水症状からのひからびエンドになりたくはない。
確か公園内には水飲み場があったな。存分に活用させてもらおう。
ごくごく。はぁー、生き返る。もっと、もっとだ!
腹が満杯になるまで飲み続けようかな。ゴクゴク。
ふう、飲んだ飲んだ。口を拭って水飲み場から離れる。腹がちゃぷちゃぷと音を立てるのは必至だ。
これだけ飲めば少なくとも午前の探索は耐えられるだろう。それまでに食料を調達できるような場所を見つけられればいいが。
それじゃ午前の探索といこう。食料調達が最優先だが、一文無しだから、お金を稼ぐ方法もどうにかして見つけたいところだ。
今日はどこを探索しようか。昨日はこの公園から市立図書館の方へ向かって歩いていったから、今度は反対方向に行ってみようか。
……ん、ちょっと待てよ。もっと効率が良い方法があるのでは。
もう一度市立図書館に行って、受付の人に聞いてみるのはどうだろうか。
あーでも、そうなるとまた英語で話さなければならなくなるか。もっと英語を勉強しておくべきだったな。
いや、もしかしたら、英語で話す必要はないのでは!? あの図書館はかなり規模が大きいから、受付の中に日本語を話せる人が一人くらいいてもおかしくはないよな。
よし、決めた! もう一度図書館に向かおう! 最短攻略ルートはきっとそれだ!
ここから図書館までの道のりはええと……そこの信号を右に曲がって、少し直進だったな。
それじゃ出発しますか。
まずは公園を出て、すぐ傍の信号を……
ドン!
「うおっ!」
横断歩道に差し掛かる数歩手前で、後ろから誰かがぶつかってきた。バランスを崩しそうになるが、なんとか踏ん張って耐えた。
「I'm so sorry, It was very careless of me.」
ぶつかってきた人は地図を手に持っている。ははん、地図を広げながら歩いていて、前方の確認がおろそかになっていたのだろう。迷惑な話だ。
「Uh…excuse me. I'm sorry if I'm wrong, but did we meet yesterday?」
ん、なんだ? ウィー・ミー・イェスタデイ? 昨日会った?
目が大きく、鼻は控えめ。唇は薄紅色。艶のある金色の髪がふんわりと肩にかかっている。
うわっホントだ! よく見たら第一町人じゃないか!
偶然にもほどがある。また第一町人に遭うなんて……。
あのときは逃げだそうとしたのに、腕をつかまれて対応せざるを得ない状況に持ち込まれてしまったんだよな。はあ、なんてこった。
これまた逃げれないやつだ。また英語で応答しなければならないのか。
希望は薄いかもしれないが、日本語が話せるかどうか聞いてみようか。
「Do you speak Japanese?」
さて、返答はいかに。
「Yes! I can sort of speak Japanese.」
え、今イエスって言った? 日本語話せるのか! やったぜ! そんじゃお構いなしに日本語でいきますよ。
「あ、それじゃ日本語で話してもらっていいですか?」
「はい! りょーかいです!」
おお、ほんとだ。少し発音に癖があるが、ちゃんと日本語を話しているな。
「それって、この町の地図ですか?」
彼女が手に持つ地図を指しながら問う。
「はい! 図書館をさがしてます!」
図書館? 昨日無理やり聞かれたのも図書館の場所じゃなかったか。もしかして、市立図書館以外にも図書館があるとか?
「市立図書館ですか?」
「えっーと、『the City Central Liblary』です」
なんだ、市立図書館じゃないか。厳密に言えば市立中央図書館なのだろうが、長いからこれからも市立図書館と呼ぶことにしよう。
「ああ、それならここからそんなに遠くないですよ。私もちょうどそこに向かっている途中です」
「Wow! なら、いっしょに行ってもいいですか?」
「あっはい、いいですよ。行きましょう」
「Thank you very much!」
一人目の仲間は第一村人さんか。もうちょっとしっかりした人が仲間になってくれたらよかったのにな。
……あれ、おかしいぞ。RPGならここで「○○が仲間に加わった!」的な文章が現れるはずなんだが、それがなかなか来ない。
ああそうか、名前を聞いていなかったな。まずは自分が先に名乗り出てっと。
「あの、私はマサヤといいます。あなたのお名前は?」
「はい。私はLucyです!」
「ルーシー……さんですね?」
「『さん』はいりません。ルーシーと呼んでください!」
「あっはい。よろしくお願いします、ルーシー」
「はい! こちらこそよろしくお願いします! マサーヤ!」
[ルーシーが仲間に加わりました!]
うおっ! 来たよ天の声! 一日しか経ってないけど、すごく久しぶりな気がする。
とまあ自己紹介もそこそこにして、信号を右に曲がった。直線に入ったところで、ふと疑問に思ったことを彼女に問いかけた。
「そういえば昨日も図書館を探してましたけど、見つけられなかったんですか?」
もしここで「イエス」と来れば、彼女は図書館を一日中探し回っていたということになる。
「ノー。昨日はすぐ見つけられました」
あ、そうなんだ。なら迷うことはないのでは? あまり道を覚えるのは得意じゃないのかな。
「えっと、スマートフォン持ってないんですか?」
「少し前にバッテリーがなくなってしまいました」
あら、なんてこった。充電し忘れたのかな。
「予備のバッテリーとかは?」
「忘れました」
あらー。これはまた。痛恨の一撃だ。
「取りに戻ろうとは思わなかったんですか?」
「いやーそれが、九時からのイベントに向けてラッシュで来たのですが、道に迷ってしまって、スマートフォンを見ようとしたら、すぐにバッテリーが切れてしまいました……」
「はあ、そうだったんですか」
補足すると、彼女は図書館で開かれるイベント目的で、この町に急いでやって来たわけだが、定期的に地図を確認していなかったため、道に迷ってしまった。スマホに頼ろうとしたがすぐに電池が切れてしまい、予備のバッテリーは家に置いてきたので全く使い物にならなかった。
仕方なく町の地図を広げて歩いていたところ、俺と再会したというわけだ。
第一町人なのにこの町に詳しくはないとはな。さすが『No future』モード様様だ。
「それは大変でしたね。私と再開できてよかったですね」
「はい! フコーチューノサイワイでした」
彼女がもし俺と再会していなければ、路頭に迷うことになっただろうな。……いや待て、英語を話せるからそうでもないような……。
そして数分後。
「イエース! Here we are at last! Thank you very much!」
ルーシーは図書館の文字を発見し、歓喜の声を上げた。
「いえいえ。無事に着いてよかったです。それじゃ中に入りますか」
俺たちは扉を開けて中に入った。
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お読みいただきありがとうございました。