第六話 応急処置
せっかく良い宿を見つけたと思ったのに、あんなことになるとは夢にも思わなかった。
家が燃えるなんて予想できるわけがないじゃないか。この世界を作ったやつは本当にどうかしているな。
はあ、ショックだ。せっかく苦労して見つけた家が一日もせずに亡くなってしまうとは。また宿探しをしなくてはならないじゃないか。
だがひとまずそれは置いておくことにする。今は早急になんとかしなければならないことがあるからだ。
両腕全体がヒリヒリと痛む。家から脱出したときに負った火傷だ。
あの時は何よりも脱出することを考えていたため、痛みはそこそこだったが、火事現場を離れてから、より一層強く感じるようになった。
どうにかして両腕の痛みを軽減しないといけない。
まずは冷やさないと。水、水を探せ!
水道のある場所が一番いい。なかったら最悪川の水でもいいや。
辺りはまだ暗いので、なかなか見つけにくいと思うが、根気強く探し回ろう。
数分後。
両腕の痛みに耐えながら半径数百メートルほど歩きまわってみたが、水のある場所はまだ見つけることができていない。
一番手っ取り早いのは、水道を使わせてもらえるようにそこいらの家に頼めばよいのだが、今はまだ夜中なので、そもそも呼び鈴に応じてもらえない可能性が高い。
不安になりながら待つくらいなら、水道や川を見つける方が手っ取り早いよな。
早く腕を冷やしたいところだが、この暗い中で水を調達するのはそう簡単にはいかないか。
運が悪かったら、朝になるまで水を見つけられないかもしれない。
もしそうなった場合、両腕の痛みはどうなっているのだろうか。火傷をしたのは初めてだから、傷をそのままにしておいたらどうなるのかはよくわからないが、何か悪化しそうな気がしてならない。
ああどうしよう。このまま処置できずに傷が悪化していって、両腕が使えなくなるなんてことになったら……。
だめだ、そんなことを考えている暇があったら、水探しに集中したほうが良い。
もう少し遠くまで行ってみよう。
数分後。
水道。川。未だ発見できず。腕の痛みは全く持って改善されていない。むしろ痛みが増して、ヒリヒリではなくズキズキと表現するほうがふさわしい段階になってきた。
もうこうなったらどこかの建物に突撃するしかないか。銀行強盗ならぬ水強盗ってか。やりたくはないが、何も手段がない場合は、そうせざるを得ない。両腕の痛みが耐えられなくなって気が狂いそうになったら、その時は特攻しようかな。
はあ、まだか。ここら辺は住宅しかないのか。24時間営業の公共施設とか、スーパーやコンビニとかさ……。まだ一度も発見できていない。希望は薄い。
公園とかを見つけられば良いが……。
あれ、ここってなんか見覚えがあるような……ん?
な、なんということだ! 昨日来た公園じゃないか!
確かこの公園にはトイレがあったな。
街灯を頼りに公園内を進んでいくと……おっ、やった! トイレを発見した!
速足でトイレに駆け込み、水道の蛇口をひねった。
ジャーーー!
勢いよく流れ出した水に両腕をつける。
「アーーー!!!」
冷える! 冷える冷える冷える冷える冷える! ! !!!
ズキズキと刺すようだった痛みが徐々に取り払れていく!
この解放感たるや! 昇天エンドもあり得かもしれない!
十分後。
両腕を十分に冷やせたので、蛇口をひねって水を止めた。痛みはかなり改善されて、さっきまでの苦痛が夢のように思えてくる。
この後の処置はどうすればよいだろう。皮膚が赤くなった程度なのでそれほど重症ではないと思うが、両腕の手首から肘までと火傷面積がそれなりに広いのが気がかりだ。
塗り薬なんかがあるのかもしれないが、一文無しだからどうせ買えないよな……。
ひとまずはこのままにしておこう。
速足で町中を歩き回ったせいで、かなり疲れた。
空が明るくなるまで、公園の木陰で休むことにしよう。
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