第三話 休憩所はどこだ
公園を後にしてから十五分ほど経った。
いまだに安心して休める場所を見つけることができていない。もうそろそろ体力が限界に近づいている。
直感で今まで進んできたが、休憩所なるものが全然見つからない。高いビルがちらほら散見されるが、どのビルもどこかの企業の建物といった感じで、入るのがためらわれるな。
もうこうなったら町の人に道を聞くしかないのだが、なにせ第一町人が英語を話していたから、ここは英語圏の可能性が高いと推察してみる。
スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどもまだ一度も見かけていない。店の名前が英語で書かれていたら英語圏確定なのだが、まだ活字を見ていないので、判断できずじまいだ。
ああ、なんだか体がだるくなってきた。頭も少しくらくらする。酸欠かもしれない。
もうこの際、誰でもいいから話しかけるしかない。
えっーと、町人は……お、発見! さあて、英語でいこう。
「Excuse me.」
「Yes?」
はて、「近くに休憩所はありますか」とどう表現したら良いものか。
休憩所ってなんの単語使えばいいんだ? レストルーム……はトイレか。
というかその前に、日本語話せるかどうか聞いてみるか。
キャン・ユー・スピーク・ジャパニーズでいいのか? 昔英語の授業で習った記憶があるが、’’Can''って失礼な印象あるって言ってたような気が……。
’’Can''のかわりに使える疑問詞なんかないかな。
あっ、バカか俺は。疑問文王道の''do''があるじゃないか!
「Do you speak japanese?」
「Japanese…oh, yes. ちょっとだけ話せます」
うおっ! 日本語話せる人いた。いやマジですか! すげーチョーうれしいんだが!
「おー、よかった。日本語通じる人がいるなんて思わなかった。ありがとうございます!」
「え、はあ。それで、どうしましたか」
「あっ、はい。んっと、近くに休憩できる場所はありますか。誰でも入れる静かな場所で……、ああ、図書館のような」
数十分前のような出来事が起きないような安全な場所が好ましい。「あの公園だけ」ですと言われたら、もうそこらへんで野垂れ死のう……。
「図書館は近くにあります。そこの信号を右に曲がって、少し直進したところです」
「信号を右折してあとはまっすぐですね。ありがとうございます、恩に着ます」
深く深くお辞儀をする。これでまず、地面に寝転がることは避けられた。
「お役に立ててよかったです」
「本当にありがとうございます。では」
「はい。Have a good day!」
いやーまさか、日本語話せる人がいるとは夢にも思わなんだ。英語しか通じなくて積みゲーかと思ったが、そうではなくてよかったよかった。
それじゃ、聞いたとおりに行ってみようか。
おっと、なんかでかい建物が現れたぞ!
なになに、''the City Central Liblary'' ……わーお、英語で市立図書館って書いてあるじゃないか。もうここ英語圏で確定していいかな。
よっしゃ、明りついてるし、中入るか。
うおー、めっちゃひろい。吹き抜けで三、四階まであるなこれ。
少し低めの棚が多いな。図書館独特のレトロで陰気な匂いがする。
読書スペースはどこだろうか。早くしないと今にも意識がどこかに飛んでいきそうだ。
奥へ進んでみよう。
棚が高い。さっきは俺の身長より低かったが、奥の方の棚は俺の二倍近くはあるな。
読書スペースはまだかな。
うーんと、俺今どこにいるんだろう。この図書館が広すぎて、だんだん方向感覚が狂ってきた。
うわー、これもう間違いなく迷ってるわ。この図書館棚の数おかしくないか。もしかしてもう俺はぶっ倒れてて、図書館迷宮を彷徨う夢を見てたりする?
あ、やばい。ちょっともう体力が限界だ。このまま通路の真ん中にぶっ倒れても問題ないよね。
視界が狭くなっていく。あれ、すぐ目の前に座り心地のよさそうなソファーが……。
あと三歩。
二歩。
一歩。
ドサッ!
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